神界にはかつてクーデターがあった。それ以来、天上天下に禍が満ち、暗黒の世の様相を呈するようになった。
私の知り合う人たちに、多くそのときの記憶を残す者が転生してきていて、その話のそれぞれが今繋がってきている。そして、今やこのマトリックス世界において神界奪還の計画が進められている。
なぜ天下がこれほど荒れすさんでいるのか。それは天上も然りだからである。為政する神々に邪な性質があらば、配下の神々から天下臣民に至るまで、邪と不正が満ちはびこるという道理である。
良識ある人々は悲しみ嘆きとともにこの世を去らねばならぬ現実がある。あの世に極楽浄土を求める人の如何に多いことか。その流れは尽きることがない。そんな馬鹿な現実がどこにあろう。それではいかんのである。この世を糾し、この世において楽土を現ぜしめねばならない。そのためには、天界があるべき姿に戻らねばならない。邪神を根絶するか、少なくとも邪神から正神へと大政奉還させねばならないのである。
古事記はそのときの有様をとどめるも、邪神の意図で改竄されており、神話による世界コントロールの魁的力となっている。
天上界の幡屋を破壊する暴虐事件は、古事記には荒くれ神のスサノオによるものと書かれるが、実はスサノオはクーデター後の配役の変わった神々の支配に異議を唱えたがゆえに、天界から追放されたのである。
そもそもスサノオは、元津天津神の神界王宮に縁戚であるを理由に交渉を申し入れるべく軍を率いてやってきて、クーデター直後の王宮を目の当たりにした。彼は、表向き統率者たる天王が未だ居るように装って、何食わぬ顔で居並ぶ側近や顔を見せようとせぬアマテラスを訝しく思い、直に面談を申し入れるも適わず奇妙に思い、手の者に調べさせたところ、すでに天王は惨殺され呪詛を施され、魂の復活すらも適わぬ状況に置かれていることを知ったのである。
天王は象徴的な結界の場としての北海道芦別岳の火山の下に魂をばらばらにされて埋められ、お妃の豊雲野神は南海の鬼海ケ島の海底深くに同じ呪詛を施されて埋められている。二度と復活できぬようにとの呪詛であった。
私は、クーデター当時に宮廷に居た天王側近の神の一人であったらしい。会議の最中に突然見知った神の軍勢が押し入ってきてテロが行われた。そこで天王はじめ多数の神々が殺された。残存した我々は、クーデター勢力の数には適わず、手分けして必要なものを持ち出し、逃げ延びることにした。
私は妃以外に神の忌幡屋にいた純朴な機織女と恋をしていた。私は当時の男の神々が習俗としていたように、自分が扇の要となったときの三方向に愛人を置くようにしていた。私は北東の方向に彼女。妃は北面。また、北西には愛する猫を置いた。
機織女の彼女は生き残っており、テロの現場で困惑していた。当面すべきこととして、私は彼女に密書を持たせて早々に里帰りさせた。いつの日か会おう。そのときは、これを持って来なさいと。
妃も無事で、すでに必要なものを持ち出して逃げていた。無事ならば、いつかは会える。
その後の調べで、クーデター側の神々を操っていた者の素性が判明した。
天王はご存知だったろうか。配下のクーデターを起こした神々に寄生する恐ろしい非生物のいたことを。彼らは魂を持たないために、嫉妬によってまず神々の世界を襲ったのである。初め、不正を陰で働くことを常態としていることが発覚し、裁きの場で未だ裁かれずに蟄居していた神々に、この非生物群は支援するからとクーデターをもちかけたのである。
不正に対する天王の糾弾は激しかったから、ずいぶんこの者たちに恨まれてもいただろう。しかし、その統率力あらばこそ、天上天下は秩序と幸福が支配的であった。
神々という存在。それは宇宙を運営する人為的存在であり、宇宙のできあがりつつある最中に外宇宙からやってきた神もいて、高度に発達した科学を持つ者であった。みなそれぞれに、幾重もの次元と性質を異とする時空(パラレルワールド)を監督せねばならないとの役割意識があった。
もちろん当時から、神々による地上界開拓計画のために人類がいた。といっても、地上界にその時空に即した肉体という作業服を着て臨む者たちのことで、彼らも魂を持ち、本質的には神と等しいわけである。彼らも初めは神であることを個々が知りつつ作業に赴いていたから、誰も不足を催す者はいなかった。
しかし、現場作業員として監督指揮を神々に仰いでいた最中にクーデターが起き、突然の連絡中断などの事故が頻発したため、彼らは天上に還るすべをなくし、やがて自ら神であることを忘れ、転生を知らぬ間に余儀なくされていったのである。それをいいことに非生物と邪神は、自分たちのためにのみ人類を使役することを思い付いた。
非生物は、一挙に天上天下を圧えることに成功した。それ以来、この非生物の意向を受けて、天上天下は「狭蝿なす満つる」状態となり果ててしまったのである。かくして岩戸は未だ開いていない。
我々天王の徳政を偲ぶ有志たちは、天界のはるか彼方、蓬莱島にて「夜明けの旅団」を結成している。そこには宇宙創造を行った梵天や弁天を頂として、幾多の強力な神々が集い、天王復活と黄金の楽土復興計画を支持し推進している。
彼らの多くは、クーデター側の意図で引退させられた神話を持っていたりするから分かりやすい。
神界クーデターの経緯と成行は「悠遊夢想」作品集の「新神話」1章から10章の物語として掲載中。
世界支配を達成した邪神と非生物がとった体制は、神々と人々のすべてを催眠下に置いて、用意されたシナリオどおりに誘導するものであった。
夜明けは、催眠の囲いを解くことから始まる。
夜明けの招来を期する、誰しも知っている預言歌がある。
かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつでやる 夜明けの晩に 鶴と亀が渾った 後ろの正面だれ | 籠目=マトリックス世界 マトリックスに閉じ込め られた英雄鳥 伊都伊都=威力の強調形 夜明け前の真っ暗な未明 すなわち現代のこと 鶴と亀が渾然とするは蓬莱島 都から正面に見えるは 玄武の山並み 後ろの正面は 朱雀となる | マトリックスに閉じ込められ 力を封印された ケツアルコアトルは すさまじいパワーで囲みを 破って出てくるであろう 夜明け前の暗黒時代に 鶴と亀が合体するという 稀有な出来事がある それから英雄は朱雀の印象 と火の鳥を携えて 世界の建て直しに臨むであろう |
ケツアルコアトルは 猛鳥と蛇の合体形で描かれる | ||
英雄はマトリックスを破壊し 有情を解放するために来る 映画のネオのように マトリックス設計者と妥協 することはない |