未然記の瓦版が降ってきた
1月3日
こ・これは・・
てえへんだ、てえへんだ、親分てえへんだ
何だと、誰が底辺なんだよ
親分に言ってんでさあ
俺が底辺だって? このやろう おめえのほうが下っ端だろうが
ち・ちがうんですよ
そうだろうよ それを言うならたいへんだと言うんだよ いつまでもなまってないで、標準語にしろい ややこしくてしょうがねえや
新年早々、いつもの大江戸八百八町八の字長屋の平治親分と岡っ引き常次のやり とりの一幕でございます。 常次のやつ、いつの瓦版かしれませんが、どこかから仕入れてきた情報とやらを、もの(手柄)にしたって顔しながら、鼻を大きく膨らませて駆け込んでまいり ましてね。
親分、こんなものが空から降ってきましてね なんだこりゃ 無条件降伏せよ? こっちはなんだ 瓦版にしては手が込んでるな ええ、雲のようなものがすっーと通り過ぎていったかと思うと、しばらくしたら舞い降りてきたんです 赤字で無条件・・なんなんだ? こっちは、あっあれだ 聖徳太子が描いたという
地球儀だろう それにしてもいやにでこぼこしてて 親分、これって人の顔じゃねえんですかい? こんなもの人の顔? おっ、おめえ、いいとこに気がついたな 銭型のとっつあんはそれまではルパンを追っていなさったが、この件以降、世界情勢を追うことにしたんだってさ。江戸発の時代を超えた物語だよ。
おう常よ、空からの瓦版、もっと降ってこなかったかい
へえ、いっぱい落ちてきたんですが、人が面白がって持って行っちまったんです
もう二、三枚集めてこいよ
へい、持って行った奴を知ってますから、わけを話して借りてきます
たのむぜ
一時もして常次は帰って参りました。ふところに三枚の瓦版を抱いて。 平治は受け取ってこれを見ます。
一枚目
二枚目
https://twitter.com/someone5963/status/1212989215824175110?s=20 …
それを見て平治は、こいつはえれえことになりやがった、と呟きました。
どうしたんです、親分
常よ、よく見ろ 地球儀の左側の目のところで何が起きると思う?
さあ、なんですかね
大きな戦だよ 目から涙出てるだろ
へえ、そういえば
それは右側の目と連動してるってことだ 右の目は琉球に置かれている そこでも大戦が起きるってことだ
これから起きるんですかい?
いいや、これは聖徳太子の時代にも空から降ったという、未然記の元になった瓦版にちげえねえ それと同じものを俺たちも見てるってことだ
最後の一枚も見せてみろ
へい
三枚目
なになに 黒龍が来るため、都は東に移される それから二百年を過ぎた頃、こんどはクハンダが来るため、その東の都は親と七人の子のように分れるだろう クハンダとは頭がウマで体が人間、黒っぽい背広上下を着てふんぞり返ってるって いったい、どんなんでい
ぷっ 親分、なんですかそれは 想像しただけで
ばかやろう そう書いてあるから仕方ねえだろ うーん 思いつくとすれば馬頭観音かな それならありがたい気がするが、都が分かれるってのはなあ
ウマってのが鍵だなあ おおそうだ 日頃自分はウマだと言ってたお侍がいたな
へい、浪人者の望月さんで
ああ、あの人は元赤穂藩の浪士で、病弱で討ち入りに参加できなかったお方だったな まあお蔭で切腹せずに日々傘貼り仕事をして長屋暮らし おう、常よ、ちょっとこの件、聞き出してきてくれないか
へい、それじゃあこの紙持って聞いてきやす
望月の旦那 岡っ引きの常次でございやす
おお、常さんかね 何かありましたかな
いえ実は、こんな瓦版を拾いまして、ここに書かれているおかしな生物についてお尋ねしたい儀がございまして
ほおほお、ウマの頭に人の体、背広とははて
旦那はよくご自分をウマと仰います 何か分かりますか
わしはウマであって、こんな中途半端な化け物ではない ウマというのは、主君の命に背かず手足の如く仕えることを言う すでに亡き主君浅野内匠頭公の忠実な家来であった頃、大病を患い・・・涙
お、お察し申し上げます すみません、平治親分がこれに心当たりはないか聞いてきてくれと
そうか わしもつい取り乱した そうだな、ウマの頭 うーん 誰かに仕えておるということではないのかな 要は騎手がいるということだ つまり乗り手がいると そうだ、鞭を当てて右へ左へと走らせる乗り手がな
うまく走ればたくさんご褒美がもらえるとか
違うぞ わしはそんなもの期待したことはない
す、すみません
こう見えても、武士の端くれ 零落したといえども、心はいつも主君とともにあり あきんどと一緒にするでない
へい、すみません ありがとうございました
親分、かくかくしかじかでした
そうかい そんなこと仰ってたかい まあよく考えてみたら、まだまだ遠い未来の出来事だろう 俺たちの時代にそんなこと、とやかく詮議しても仕方ねえやな おう、常よ、俺たちゃ、将軍家のお膝元で、小さな事件を解決して、天下泰平を願う身だ これからも、よろしくな