妖怪戦争の行方

「世界の歴史は、門音一族と鬼面一族の政権交代劇の歴史だよ」
とその昔、サゴジョウから教わったことがある。
その時は、何のことやらさっぱり分からなかった。
門音(かどね)とは合成して「闇」。何かをたえず企んでいて、世相を闇に導くことを生業としている。
鬼面(おにづら)はその名の通り、力強く怖い風貌の心優しい「鬼」である。今は誰にも知られなくなった黄金時代とは、彼らが政権を担っていたころのこと。
当然今の時代は、黎明期から今に至るまで門音族によって支配されているといった具合で、人間という短命の存在からすれば、とてつもなく長い政権に見えるが、全体からすればそれほどのものではない。
政権交代の時には、およそ激動があり、現状維持にしがみつきたい葦のように弱い人間にとっては、たいそう恐ろしいことに違いない。
しかし、その惨状を見て、もうこの先はないと思うのは早計。必ず時は巡ることになっている。
門音と鬼面。実はどちらも妖怪だ。門音は、人類を家畜として飼育し、その生き血を吸い、心を支配する。鬼面は、人類を他の生き物と同等に育成しつつ、知能に見合った教育をする。
そうした意味で、人間感情的に善と悪に別けることができるだろう。
世界が、俗にサタンに支配されていると言われる意味は、門音の政権下にあるということだ。
妖怪であるから、形而上の界(異界)とこの世を行き来し、あるいは人間に取り憑き、目的を果そうとする。
霊能者のように、幽冥の境を見聞できる者は、ときおり彼らのよすがを覗くことがある。分かっていて覗くならよいが、分からずに立ち至ったならば、彼らのおぞましい生態を目の当たりにするだろう。特に門音の都市などはゾンビの溜まり場。生贄の人間たちが凄惨な肉片になって転がっていたりする。それを見て、地獄に来てしまったと語り継ぐわけだ。
このような者たちをどうしてのさばらせておくのか。神は何をしているのか。
そう思うのも無理はない。神とは、人間がこしらえた理想の属性保持者であって、同様に人間がこしらえた恐怖の属性保持者がゾンビ・サタンであり、どちらも人間の要求に応えて存在しているのである。
サタンの跳梁跋扈に力を与えてきたのは、あなたがたではないが、過去の人間であるに違いないのだ。また、神も過去の人間が作り上げた存在であり、今の混沌の時代は、過去の人間の作ったシナリオによって動かされているという具合なのである。
それに対して、認可を与えてきたのが、後発の人間たちであり、現代人といえどもそうなのかも知れない。
呪縛を解く機会はいくらもあったというのに、それをしてこなかったのは如何なることか。結果、今からその結果を査収せねばならないというわけである。
鬼面族は、過去の先住民の理想から作られた存在だ。この力は、門音の妨害によって削がれてきたが、わずかながらの萌芽をもとに伸び上がろうとしている。応援する者は、それなりの恩恵を受けるだろう。
むろん門音はさらに政権を維持しようとやっきだ。それゆえ、門音を応援する者のほうが多かろう。
だが、移動平均線からあまりにも乖離して積み上がっているのだから、トレンド転換は間もなしと予感できるだろう。未来のトレンドは、鬼面を支持することになる。