カリユガの闇がこの世界をまだ覆う前、地球上に神人共存の時代のあったことの記憶は、もはや魂の内奥に住むおぼろげなノスタルジーとでも言うべきものになってしまった。
おや? このあたりは、かつて見たことのある風景だ。視界をさえぎる電信柱と電線の群れ、新幹線の高架橋、そして建物群を取り払ってみよう。イメージは、超古代の同じ空、もう少しクリアーな青色で、吹く風も心地よい。
車を走らせる国道二号線の右手に、みごとにスパッと斜面が切り取られたような小山が見える。そのやや手前にある秀麗なピラミッドに続いてこれが現れれば、この斜面が何を目的にしていたかが、おのずと思い出されてくる。
すぐ裏のピラミッドをエネルギーチャージャーにして、航空機をガイドする電波鏡として機能していた山である。
その向かいの交差点についた地名は「香登(かがと)」。すなわち、輝く門戸の意味で、この設備のことだ。
左手には、備前長船の名刀を生んだ地、長船の集落がある。
この地は、航空機の格納庫のあった場所で、地名は「収める船」から転化したようだ。
その先は、吉井川沿いにやや開けた平地があり、離発着する航空機が、先入れ先出しの一定のルールに沿って出入りを繰り返している。といっても宇宙にまで飛び立つための宇宙船であるから、ジェットのように助走をつける滑走路が要るわけではなく、さほど広大な敷地でなくともよいのであるが、それでも数を捌くためにこれぐらいは必要となっていたようだ。
第一の着陸路に入射して着陸すれば、格納されるものを除けば、ただちに第二の離陸路に移動する。その展開場所は、いま「車」という名で残っている。
入射に際して、航空機が識別する最初の判断材料は、鏡からの信号と高みから見慣れた地形だ。次第にクローズアップされてくる、侵入路を示す雁の形の鳥山と、鯨山が眼下に。その間をキープすれば自然に、雁が葦原に降り立つ如く着陸できるのだ。
離陸までに時間のある日には、よく私は腰弁をして副官と連れ立って、ピラミッドやその向かいにある前方後円墳のような管制設備の小山の公園に行って、愛や夢を語らったものだった。
離陸は、たえずエネルギーをチャージして構えている、今は「甲山」と名付けられる秀麗な山の初動のパワーをもらい、まずはふんわりと行われる。やがてやや離れた「富田松山」(飛んだのを待つという意味の転か)のパワーとの合力でさらに高みに飛び、「熊山」の上空に移動すれば、更なる上昇気流の如き大パワーを受けて一直線に宇宙へと飛翔していくのだ。
今となれば、カリユガの闇に閉ざされる前の、神人共存の栄光に満ちた時代の遠い昔話。