夢のような不思議話(2) 異界的謎解きと封印解除に捧げた人生 などと言えばおこがましいか

異界的謎解きと封印解除に捧げた人生? 捧げた?ですって?
違うでしょ。捧げたと言えば、まるで自己犠牲みたいだけど、そうじゃない、捧げたけれどいただきましたというのが本当ですよ。
ちゃんと、いただくべきものはいただいて、御馳走さまでしたというのが本当なのです。
若女酒、女体俎上の活け造さしみなど、この齢になってよくまあといった贅沢でございました。
そりゃあ、リッチなエスタブさんたちのようなことはありません。
ちょうど、路上生活者の前に、今日はクリスマスだから、たっぷり食べてくれよと食事を並べられたときの気分。そんなものでしょう か。
ちゃんと、お相撲の蹲踞の姿勢で、”心”という字を手刀で描いて、”ごっつあんです”を申しましたもんね。

ええー、浅香山さん、この奥登の相撲態度はどう評価されますでしょう。
(しわがれた声で)ええー、そうですね、がっぷり四つに取組むのが、この人の姿勢ですから、今場所十五番のおおかたは満足いくもの じゃなかったですかねえ。
八勝七敗。この成績はまあまあということでしょうか?
(しわがれた声で)えー、そうですね、下半身のもろさは若干見られますが、けいこを重ねて来場所に備えるなら、三役の座も窺えて楽 しみではないでしょうか。

どうもごっつあんです。ご紹介に与りました奥登です。
謎解きに、それも異界の謎解きひとすじでやってまいりまして、世に知られぬ貢献をけっこうしてきております。
名探偵明智小五郎は現界の謎解きゆえに、有名を馳せましたが、この奥登は、日陰者、いや、お天とうさんに顔向けできない、いやこれ も違う、隠された世界で、居並ぶ謎の力士たちを、コテンパンに、いやこれもおかしい、まあつまり、その謎の強者たちを寄り切って参った次第であるため、現 界ではまったくの無名ですが、あちらでは豪腕探偵として勇名を馳せております。

インタビューアー: まるで亀田興毅選手のような勢いが感じられますが、何が関取をそこまで駆り立ててきたのでしょう?
奥登: そうですね、ナニワのド根性と言いますか、コンニャロ精神といいますか、転ばされたらタダで起きない、地面の草ならぬ、相 手の髪の毛を引きむしってくるド根性と言ってもいいでしょうか。
インタビューアー: はあ、そんな試合がおおかったようですね。
奥登: そうです。力士二人は髷が結えなくなるほどでしたからね。
インタビューアー: まさに格闘技。雷電為衛門の頃を髣髴とさせたとの評判でした。さて、来場所を期待ですが、どのあたりを目指さ れますでしょう?
奥登: そうですね、一番一番を着実に取り組んでいく。それしかありません。
インタビューアー: これはまた、相撲の力士らしいお言葉。ではまた来場所、がんばってください。
奥登: ごっつあんです。

若かりし頃の奥登

あれは学業の最終行程とも言える時でした。奥登はリタイアしてしまったのです。母親はおやおやこれはいかがしたことか、グレてし まったと解釈して祖母に相談すると、当時一家で入信していた宗教があり、その支部道場が修練の場を設けているとのことで、奥登をそこに向かわせたのです。
期間は一か月でしたが、そこの館長のお憶えが悪く、一か月後の卒業日に破門を言い渡されてしまいます。奥登は、はてどうしてそう なったのかを思い返すと、修練の半ばごろに修練を受けに来ていた中年女性が、毎晩のように龍の夢を見たとかで、朝になって脂汗垂らしてパニックってる。そ れを館長がそこの神さんに伺いを立てた結果、どうも奥登に原因があると見立てたために、掌返したように全体の雰囲気が悪くなったことに思い当たる。
無口だった奥登には、事情を調べるすべもなく、卒業日のあまりの仕打ちにショックを受けるも、なすすべなく、祖母がよかれと思って したことが裏目に出て、祖母も立場を無くし、そこから脱退することになってしまう。
祖母には、その宗教において、場所を提供して地方の小支部を開設したい夢があった。それも打ち砕いてしまった奥登。
コンニャロー。持ち前のナニワのド根性がめらめらと奥登を燃え上がらせます。こうなったら、そこの教祖の書いた書物への一部なりと も、対案を出して、凌いでやろうと決意。
その教祖は元々が作家で、文章が実に巧み。膨大な文書量には及びがつかないまでも、この分野でならしがみつけるとやったのが、ある 古文献の解読解釈だったのでした。

奥登も社会人として約10年を経た頃に、神々の世界から地上界のすべて、古今東西の哲学思想を統一できそうな超宇宙論を発想し、こ れによって神とはなんぞやを奥登として解き明かし、さらにかの宗教教祖の古文献解釈とはまったく異なる解読結果の精妙さに、奥登はしてきたことに間違いは なかったと確信。その二つの論を自分なりの研究成果として一冊の本にしたのが赤本だったのです。
ところが、それを寄付した所が悪かった。そこにかの宗教信者がいたため、善意でしたことが悪意にとられ、またもこの宗教によって圧 力が、かと思われたのでしたが、かえって奥登は異界に異彩を放つとされてランクインして、これがお相撲の世界に入るきっかけになりました。
その方面では体格が一段と良い奥登。親方衆の目に留まらぬはずはありません。新弟子検査では、難なく合格。あとはどこの部屋に所属 するかといったことが、スポーツ誌界では囁かれたのでした。
しかし、奥登にはそんなことはどうでもよく、所属部屋が決まれば、地道に稽古して、新弟子から序二段、三段目と、着実に試合をこな していくことに精を傾けたのです。
奥登の心には、相撲は奥深く面白い、この人生、これに賭けようと決意したのでした。
 

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