ざれ事(1)

「おい。おめえがそんな奴とは知らなかったよ。見損なっちまってたぜ」
「そんなこと、やいやい言わないでくれよ」
「うおっ。あれが俺たちが住んでた町かよお。まるでナイアガラの滝だ」
巨大低気圧の異常気象に見舞われたブラジル。奥地からの膨大な量の水が一気に平地に流れ込み、幅広い濁流を作って、まださらに低いところにある都市部へと向かっていた。
すでに都市部は暴動の頻発によって壊滅状態であり、災禍を避ける人々は奥地に向かい、あるいは国外へ脱出しようとしたものの、状況はさほど変わらないことに行き場を失っていた。
奥地の高台の町といえども水没の状況。ところどころ、川の中の州のように取り残された場所があった。そこに空を見上げながら、手を振る一団がいる。
「あれ人だぜ」
「大丈夫だ。俺たちのことが分かって手を振ってるんだ。別の船が助けに行く」
と、見る間に大型円盤が州の上空に滞空し、ごそおーっと数十人を吸い上げた。
「ヒッチハイクの要領だよ」
「カメさん、ありがとうよ。俺、おめえのこと・・誤解してたと言っていいのか・・へへ・・てれるぜ」
「だって、おめえさんは、おらたちの命の恩人だもんよ。真っ先に何とかしたいと思うわさ」
「おめえに何かした?あーあ、ソースがないから貸してくれって来たの、あれか?」
「そうだ。あれで一家は飢え死にせずにすんだ」
「まさか、冗談言うなよ。俺はおめえっちの掘っ立て小屋の土壁の裏側を知ってるんだぞ。あんなハイメカが隠されてるとは誰も気付くまい。俺たちの国には、いっぱいおかしな場所があるとは思ってたが、あんたの家は特別だ。軍事のお偉いさんかと思ったぜ」
「俺のようなみすぼらしいのは、世界のどこにでもいる。ちょっとしたきっかけを待ちながら住んでいるんだ」
MIBというのか。一般人になりすまし、宇宙人は世間の巷に紛れて暮らしている。まさかと思うようなところにもいたりするようだ。
パコス・デジ・カメ、通称カメさんと、今しがた助けられたミロ・ペイトン・ツール、通称ツルさんとは、苛酷な地主の取立と、年々の収量激減に苦しめられながら、トウモロコシ畑で汗する貧農小作人であった。ストし農場を追い出された者は数知れず。暴動鎮圧に、農場経営者は武装した自警団を作るのがトレンドになっていた。しかし、いよいよ百姓自体の絶対数が不足し、これ以上は続かないと、儲けた金をもとにどこか安全な国にトンヅラしようと企んでいた矢先の集中豪雨だった。畑は全滅。掘っ立て小屋などは真っ先に流失し、自警団の警護する頑強な邸宅にも、雨音だけでない、空がうなるような音が近づいていた。
テレビはニュースでどこで何が起きているかの予測だけしか流さない。調べる手立てがないのだ。「なるべく高台に避難してください」とがなりたてるばかり。その声も不安に震えている。
「おお、神よ。私は毎日祈りを捧げていました。バイオ燃料の原料作りに精をだし、主として日本の自動車のお役に立っていました。確かに近頃は小作人の働きが悪くて、あまりお役に立ってなかったことは事実です。しかし、良いことしかしておりません。願わくば、あなたの御許へ」
テレビを見る農場主は、左手に聖典、右手にライフルといういでたちであった。金庫には、世界を何周もできるレアルが詰まっていた。
「くそっ。こんなことなら出発を先週にでもしておけば・・」と怒鳴ったとたん、停電。
「ああーっ」と、恐怖に歪む顔。
ガシャーン。濁流が飛び込むや邸宅は空箱をひしゃぐように歪み、倒壊に2秒もかからなかった。
「さて、着いたことは着いたが・・・しばらく待っていなきゃならんかな」
船の周りには、異なるタイプの大小の船が並んでいた。順番待ちだ。
カメさんは、コントロールパネルに表示される意味不明の文字を読み、ボタン操作をやっている。隣に座るツルさん、パネルとカメさんの顔に視線を交互するばかりだ。
「ちょ、ちょっと聞いていいかな。この船って、UFOなんだろ?いま、どこにいるんだ?」
「ああ、すまなかった。いま、地球の大気圏外にいるんだ。今から乗り込もうというのが、マザーシップだ。今のところ地球人3547人がここに集まっている。おらの船からは、あんたとあんたの家族、そしておらの妻、あわせて5人ってことさ。中で知りあいが見つかりゃいいがなあ」
ま、たいがい突っ込み役とぼけ役、悪役と善玉を織り交ぜながら、物語というのは進行してまいるもので。次号は、マザーシップの中のエピソードをお届けする予定でございます。